口の中にも癌は出来ます。代表的なのは舌の癌で、歯肉に出来る癌も当然あります。又、組織の内部に出来る(非上皮性と言います)肉腫と言うものも、癌より頻度は低いですが有ります。
歯科医院でも、3年に1度位は、癌を思わせる病変にお目にかかりますが、心配して来院される方の殆どは癌では無いことが多いです。口の中の癌(口腔癌)は体の表面に出きているものが多く、実際に目で見る事が出来ますので、見て、触れば大体の見当はつきます。ここでは、癌が出来たと、あわてふためくものの、癌では無いパターンの代表例をご紹介します
健康な舌
下顎隆起(かがくりゅうき)
これは、下顎隆起と言うただの骨の出っ張りです。下顎の歯の内側のドテの骨は出っ張って来る事がありまして、特に左右対称では無いことが多く、大きさもパチンコ玉のひとまわり小さくしたものや、山芋みたいな形をしたものまでよくみかけられます。こんな出っ張りが有ったら、気づきそうなものですが、意外に、ひょんな事から発見して、焦る人が多いらしく、恐る恐る、歯の治療の際に聞いてくる場合が多いです。当然、邪魔でなければ、このまま放置しておいて良いです。あまりに大きくて、舌の運動を阻害したり、歯が駄目になって、入歯にした際に、入歯の端がその骨の出っ張りに当たって痛い場合には、削る事も有ります。 何でこんな出っ張りが出来るかと言うと、咬む力が強い人の場合、歯を守るために骨を厚くしているとの説があります。
ただし、短期に大きさの変化が見られるものや押して痛いもの、表面が正常な粘膜の色をしていない場合は、骨肉腫の可能性もなくはないですので、口腔外科を受診する事をお勧めします。
尚、以下の場合は健康保険で取り除くことができます。
1、義歯の装着に際して、下顎隆起が著しい障害となるような場合
2、咀嚼又は発音に際して、下顎隆起が著しい障害となるような場合
義歯の場合は有り得ますが、咀嚼や発音に際して障害になる様な場合は稀です。なぜならば、急に出来るわけではないからです。
口蓋隆起(こうがいりゅうき)
粘液のう胞(ねんえきのうほう)
以上が、歯科医院で良く見られる、癌だと思って驚いてやってくる患者さんのパターンです。
次にお見せする映像は、注意を要する粘膜の変化です。
咬傷(こうしょう)
口の中に出来て、癌が疑われる場合のポイント
明らかに周囲より出っ張っている。
触っても痛みが無い。
粘膜の色が、白っぽい。または白かったり赤かったりする部分がある。
突然出来たものじゃないが、何だか大きくなっている傾向が有る。
できものの粘膜の表面がカリフラワーみたいに、ボコボコしている。
口の中に出来る腫瘍は圧倒的に良性腫瘍が多いです。口腔癌は全てのガンの中での頻度は1~2%程度と言われ、それほど多くはありません。ただし、日本では年間8千人程度が口腔癌になると言われ年々増加しています。
口腔癌は、胃がんや肺がんと違って、殆どの場合が直接見ることができます。
しかし、もし口腔癌だった場合、小さければ摘出するだけで終わりですが、大きい場合は顔の皮膚や骨の一部を切り取る必要があり、その後に再建と言って機能や外観を治さなければなくなりその方の生活を大きく変える事があります。
再建は胸の筋肉や、背中の筋肉、手の筋肉を使う事が多いので、お腹等のガンに比べて大きな手術になる場合が多く、形成外科と合同で手術をする場合もあります。
特に、某大学の先生によると見えるところに出来るのにかかわらず日本では2センチ以上の大きさになってから来院される方が8割だそうです。口腔癌は1センチと2センチ以上では手術の範囲、その後の機能の維持等に大きな違いが出ますので、もっと皆様が早く受診する必要があります。
口腔がんは出来るだけ早い発見と治療が必要。
<前癌病変> 癌じゃないけど、癌になる可能性の有る疾患。
口腔部分では、白板症と紅板症があります。
白板症 癌になる可能性は2~5%
粘膜が白っぽくなった状態。こすってもとれない。
中心部はやや硬いが、境界部が硬いのは良くない場合が多い。
赤い部分と白い部分の混在は良くない場合が多い。
ステロイドをぬっても効果なし。
症状により注意深い1か月毎の経過観察。それが出来ないなら切除が望ましい。
薄く剥がすオペなので、障害が出にくい。
細胞診や組織診が必要。
細胞診の場合境界をこすってこないと中心部では正確な診断が出にくい。
誘因は尖った歯、合わない義歯等の刺激がある。
タバコは特によくない。酒もあまりよくない。
紅板症 癌化する可能性は50~60%。
赤っぽいびらん性の病変。
最初から痛い赤いびらんはあまり問題ない。
1か月単位で変化してくる物はよくない。
細胞診や組織診で診断。
治療は、症状にもよるが、注意深い経過観察か切除。
扁平苔鮮等との鑑別が必要。
ブリンクマン指数 一日のタバコの本数かける喫煙年数が600を超えると危険。
一日20本×30年 で危険水域 肺がんは400だそうだ。
癌(がん)の診断
他のガンと違って、殆ど見えますのでパっと見れば大体の診断はつきます。
つまり痛い検査もなく受診したその日に、おおよその結果を聞ける事と言うことです。
診断を確定させるには、患部の組織を少し切り取って顕微鏡で細胞の形をみてもらう病理組織診断です。
ただ、癌の場合癌細胞にメスを入れると、その細胞が血液に乗って運ばれて他の組織に転移する可能性もなくはありません。そこで用いられるのが細胞診です。癌じゃないかと疑われる表面を歯ブラシの様な器具でなでるだけですみます。病理組織診断よりは精度は落ちますが、メスを入れませんので転移させる心配もございませんし、痛みも全くありません。
当院では明らかに癌を疑う患者さんの場合は、提携病院口腔外科を紹介しておりますが、境界領域の場合は、病理組織検査を実施いたします。尚、細胞診も行っております。細胞診に関しては、東京歯科大学千葉病院臨床検査部に検体を送って診断をしてもらいます。
がんに似た疾患として肉腫が有ります。同じ悪性腫瘍ですが、がんは粘膜等の表面にできるものを言うのに対して、肉腫は組織の内部に生じる(非上皮性)悪性腫瘍をそう呼びます。口腔領域では、顎の骨に出来る骨肉腫が代表例です。当然、骨の内部から発生しますので、ある程度腫れて気が付く場合と、歯科医院において撮影したレントゲンに偶然に映った陰影により発見される場合があります。この骨肉腫はがんよりは、転移の傾向が強いので、早期発見が大事です。
記入00/7/5
追補08/04/16